top of page

いきものがたり

この本は、「いきものがかり」のリーダーであり、数々の名曲を手がけたソングライター・水野良樹さんが綴った、音楽と思索のエッセイです。


私はいきものがかりの楽曲が大好きです。でも、コンサートに通うような熱狂的なファンではなく、どこか日常の風景とともに彼らの歌が流れていた——そんな距離感で親しんできました。だからこそ、この本を読み進めるうちに、まるで心の奥にそっと触れられるような感覚に、不意を突かれました。


読むきっかけは、たまたま観たテレビ番組『日曜日の初耳学』でのインタビュー(参考リンク)。

水野さんの言葉に不思議と惹き込まれ、本を手に取らずにはいられませんでした。


驚いたのは、あの国民的ヒットソング「ありがとう」が、水野さん自身には最初、自信が持てなかったという事実。

作り手として「自信のない作品は出すべきではない」のではないかと思い悩んでいた彼が、この一曲によって「大切なのは“届く”ことなのだ」と価値観を変えていく、その心の軌跡が静かに、でも力強く綴られています。

なかでも、印象的だったエピソードがこちらです!



ある日、弁当屋で買い物をしていたとき、ふとFMラジオから「ありがとう」が流れてきたそうです。

「この曲、好きだなぁ」——何気なくそう呟いた奥さんに、隣の旦那さんが「いい曲だよね」と微笑み、鼻歌を口ずさむ。そして奥さんがくすりと笑う。

その場にいたのが、まさか水野さん本人だとは、ふたりとも気づかない…笑


でもその光景に、彼は強く胸を打たれたといいます。

名も知らぬ誰かのささやかな日常に、自分の曲がそっと寄り添っていた。それこそが音楽の本質であり、自分の手ごたえや評価なんて、本当はどうでもよかったのだと——。


“歌がちょこんと腰かけて、誰かの暮らしのそばにいること。”その光景こそが、彼にとって一番嬉しいことだったのです。


そしてその年の大晦日、NHK紅白歌合戦。

「ゲゲゲの女房」の主人公であった松下奈緒さんがその美しく穏やかな笑顔で、優しく丁寧に奏でた「ありがとう」を、客席で涙を流して聞いているひとがいる。

『歌はちゃんと届いているじゃないか』



この感覚は、私自身の今の仕事にも、深く重なりました。

今回、ベトナムの農園から初めて輸入するコーヒー。その味や香りを確かめるために、何度もテイスティングを重ね、現地との調整やパッケージデザインにもとことん向き合いました。それはもちろん、大切な工程です。


でも、ふと気づきました。本当に届けたいのは、完成度の高さではなく——このコーヒーを手にした誰かの、ささやかな日常にそっと寄り添えること。


朝の慌ただしい食卓、午後のひと息、おやすみ前の静かな時間——そんな何気ない瞬間に、ふっと気持ちがやわらぐ。そんな存在であれたら、きっとそれが一番幸せなことなのだと。


『いきものがたり』は、ただの音楽エッセイではありません。それは、「誰かの人生に寄り添う」という想いが、どれほど優しく、強く、尊いかを教えてくれる物語です。そして、自分が届けたいものは何かを、そっと問いかけてくれる一冊でもあります。

私もまた、自分の「ありがとう」が、あなたの毎日に届くと嬉しいです。

 
 
 

最新記事

すべて表示
【ご報告】ベトナムより本船入港、通関手続きへ

7月21日、遥かベトナムより本船が無事に日本の港へと入港いたしました。そして、7月24日にはコンテナからすべての貨物搬出作業を滞りなく完了することができました。ここまで支えてくださった関係者の皆さまに、まずは心より感謝申し上げます。...

 
 
 
【展示会レポート】CAFERES JAPANへの参加

7月18日、東京ビッグサイトで開催された「CAFERES JAPAN 2025」に参加してきました。カフェ・レストラン業界を網羅するこの展示会は、多くのバイヤーや生産者、業界関係者で大いに賑わっていました。 ( https://caferes.jp/ )...

 
 
 

Comments


bottom of page