いきものがたり
- Excellcia Coffee
- 6月15日
- 読了時間: 3分
この本は、「いきものがかり」のリーダーであり、数々の名曲を手がけたソングライター・水野良樹さんが綴った、音楽と思索のエッセイです。
私はいきものがかりの楽曲が大好きです。でも、コンサートに通うような熱狂的なファンではなく、どこか日常の風景とともに彼らの歌が流れていた——そんな距離感で親しんできました。だからこそ、この本を読み進めるうちに、まるで心の奥にそっと触れられるような感覚に、不意を突かれました。
読むきっかけは、たまたま観たテレビ番組『日曜日の初耳学』でのインタビュー(参考リンク)。
水野さんの言葉に不思議と惹き込まれ、本を手に取らずにはいられませんでした。
驚いたのは、あの国民的ヒットソング「ありがとう」が、水野さん自身には最初、自信が持てなかったという事実。
作り手として「自信のない作品は出すべきではない」のではないかと思い悩んでいた彼が、この一曲によって「大切なのは“届く”ことなのだ」と価値観を変えていく、その心の軌跡が静かに、でも力強く綴られています。
なかでも、印象的だったエピソードがこちらです!
ある日、弁当屋で買い物をしていたとき、ふとFMラジオから「ありがとう」が流れてきたそうです。
「この曲、好きだなぁ」——何気なくそう呟いた奥さんに、隣の旦那さんが「いい曲だよね」と微笑み、鼻歌を口ずさむ。そして奥さんがくすりと笑う。
その場にいたのが、まさか水野さん本人だとは、ふたりとも気づかない…笑
でもその光景に、彼は強く胸を打たれたといいます。
名も知らぬ誰かのささやかな日常に、自分の曲がそっと寄り添っていた。それこそが音楽の本質であり、自分の手ごたえや評価なんて、本当はどうでもよかったのだと——。
“歌がちょこんと腰かけて、誰かの暮らしのそばにいること。”その光景こそが、彼にとって一番嬉しいことだったのです。
そしてその年の大晦日、NHK紅白歌合戦。
「ゲゲゲの女房」の主人公であった松下奈緒さんがその美しく穏やかな笑顔で、優しく丁寧に奏でた「ありがとう」を、客席で涙を流して聞いているひとがいる。
『歌はちゃんと届いているじゃないか』
この感覚は、私自身の今の仕事にも、深く重なりました。
今回、ベトナムの農園から初めて輸入するコーヒー。その味や香りを確かめるために、何度もテイスティングを重ね、現地との調整やパッケージデザインにもとことん向き合いました。それはもちろん、大切な工程です。
でも、ふと気づきました。本当に届けたいのは、完成度の高さではなく——このコーヒーを手にした誰かの、ささやかな日常にそっと寄り添えること。
朝の慌ただしい食卓、午後のひと息、おやすみ前の静かな時間——そんな何気ない瞬間に、ふっと気持ちがやわらぐ。そんな存在であれたら、きっとそれが一番幸せなことなのだと。
『いきものがたり』は、ただの音楽エッセイではありません。それは、「誰かの人生に寄り添う」という想いが、どれほど優しく、強く、尊いかを教えてくれる物語です。そして、自分が届けたいものは何かを、そっと問いかけてくれる一冊でもあります。
私もまた、自分の「ありがとう」が、あなたの毎日に届くと嬉しいです。
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